以下の記述は [11] を参考にした。
高圧の地球惑星内部では、物質は大きな静水圧縮を受ける。 その場合にはもはや無限小歪の取り扱いでは用をなさず、有限歪の取り扱いが必 要となる。 Birch-Murnaghan の状態方程式とは、Murnaghan の一般的な有限歪弾性論を援用 して、Birch が導いたものである。 以下では、オイラー流の記述を用いた導出を行う。
変形前 (圧力) の状態での任意の微小ベクトル が静水圧による等 方的な変形を受けて になったとすると、これらの間には
(C.1) |
なる関係がある。 ここでは定数で、圧縮のときである。 これよりオイラー歪 (Almansiの歪テンソル) は
となって、有限等方歪 は
(C.2) |
と書ける。 この定義では は圧縮のときに負となり、高圧下での圧縮を論ずる際には少々 不便である。 そこで と符号を反転させた を以下の議論では用いることにす る。
まず、有限変形に伴なう密度変化を求めよう。 変形前 (圧力0) の体積素片の体積を 、密度を とし、圧力下で これらが各々 、 になったとすると、変形の等方性(式(C.1)) から
(C.3) |
あるいは
(C.4) |
なる関係を得る。
高圧下で有効な状態方程式を導くために、熱力学的な考察を加える。 体積を、圧力を、温度を、エントロピーを、内部エネルギーを、 Helmholtz の自由エネルギーを とすると、
(C.5) |
なる関係がある(A.1.4章を参照せよ)。 静水圧下の圧縮では、 及び はそれぞれ断熱的、等温的に蓄えられた歪 エネルギーに相当すると考えられる。
歪エネルギー ( または )を 歪のベキ級数で表わそう。 で 及び であることを考えると、このベキ級数は
(C.6) |
の如く、の0次及び1次の項は含まれないことが分かる。 式(C.6)を式(C.5)に代入し、式(C.3)を考慮すると、 圧力と歪の関係は
(C.7) |
と書ける。
式(C.7) に含まれる係数、を、物理的に明確な意味を持つ量で書 き換えてみよう。 式(C.7)から、体積弾性率 (体積圧縮率の逆数、 A.1.7章を参照せよ) は
(C.8) |
と書ける。 特に (に相当) の場合を考えると、
(C.9) |
を得る。 ここではでの体積弾性率である。 同様に、体積弾性率の圧力勾配 について、
の両辺を計算すると、
特にの場合には
(C.10) |
を得る。 ここではでの体積弾性率の圧力微分値である。 これらを式(C.7)に代入してやると、
(C.11) |
を得る。 式(C.11)を Birch-Murnagham の状態方程式と呼ぶ。 及び に断熱条件での値を用いれば、断熱圧縮における圧力と密度 の関係式を与える。 また等温条件でのそれを用いれば、等温圧縮におけるとの関係式を与 える。
先に議論した Birch-Murnaghan の状態方程式では、温度が上がる効果は含まれ ていなかった。 ここでは、温度が上がる効果を含めた状態方程式を検討する。
温度が上がるにつれて、物質中には格子の熱振動のモードがエネルギーの低いも のから励起され、内部エネルギーが上がる。 個の原子からなる系を考えれば、各原子は3方向の運動の自由度をもつから、 系の自由度はである22 2 より厳密には系全体の自由度に相当する6を 引くべきであろうが、からとした。。 これは個の振動子 (フォノン) の集まりと考えられる。 系の高温での性質を知るには、このの振動子がどのようなエネルギー分布、 つまり振動数の分布を持つかが問題となる。
量子力学及び統計力学によれば、振動数の振動子のとり得るエネルギー準 位は (ただし) であり、各準位をとる確率は である。 ここではプランク定数、はボルツマン定数である。 従って、1つの振動子の平均エネルギーは
(C.12) |
となる。 ここで、第2式から第3式への変形には、分母が初項1、公比 の無限等比級数であること、及び分子はそれを で微分したものであることを用いた。 系全体の内部エネルギーは、式(C.12)の個の振動子について和を とったものになるから、
(C.13) |
ここでは振動子の番号、はKでの内部エネルギーである。 の具体的な表式を定めるには、個の振動子の振動数の分布を決め る必要がある。
これを基にして状態方程式を導くために、熱力学的な考察を加える。 内部エネルギーとHelmholzの自由エネルギーの間には
なる関係がある(A章を参照のこと)。 これより、
(C.14) |
の如くの表式を得る。 式(C.5)に代入して圧力を求めると、
(C.15) |
を得る。 ただしとは体積だけの関数と仮定した。 式(C.15)で、振動子の振動数が体積によって変化する割合を表わすパラメー タ
(C.16) |
がどの振動子についてもで一定であると仮定すると、 式(C.15)は
(C.17) |
と簡略化される。 この式は Mie-Grüneisen の状態方程式と呼ばれる。 ここで式(C.17)の右辺第1項はKでの圧力を表わし、 第2項は温度上昇に起因する熱振動による圧力で、熱圧力とも 呼ばれる。
なお、式(C.16)から定義されるは Grüneisen parameter と 呼ばれる。 これは振動子の振動数が体積変化によって変化する割合を表わしており、高温下 における物質の性質を論じる際に重要な量である。 式(C.17)を体積一定のもとに温度で微分すると、
これより
(C.18) |
のように表わされる。 ここでは熱膨張率、は等温体積弾性率、は断熱体積弾性率、 は定積石比熱、は定圧比熱であり、
及びの関係式を用いた。 式(C.18)は式(1.33)と等価であることに注意。 即ち、はマクロな観測量で表わせていることになる。 実際の鉱物の、、、 の測定データから を求 めると、その温度依存性は小さく、ある程度以上の高温ではほぼ一定とみなせる。 また鉱物種の違いによるの違いは小さく、およそ1から2の範囲に収まっ ている。
振動子の振動数がどのような分布をしているかを Debye モデルに従って モデル化し、式(C.13)の内部エネルギーを見積もろう。 Debye モデルでは、個の原子からなる個の振動子を連続体の弾性波で置 き換える。 ただし、振動子の個数が個と有限であることは、弾性波の振動数をあ る最大値で打ち切ることで処理する。
波数ベクトル、振動数で伝わる平面波
を考える。 この平面波が体積の立方体の中を伝わるとしよう。 周期境界条件のもとで存在しうる波は、波数 が
を満たすものに限られる。 このことを を座標とする波数空間で考えると、 間隔に分布する格子点の各々に対応する波が1つ存在すること になる。 弾性波の速度を として、振動数以下のモードの総数は、半径 の体積に含まれるモードの総数であるから、
と書ける。 ここで、単位体積あたりに存在しうる波の個数が である ことを用いた。 上式より、モードの数の分布関数 は
(C.19) |
と与えられる。 さらに弾性波には1方向につき1つの縦波() と2つの横波()が あることを用いて、式(C.19)の をこれらの平均値で置き換え、
(C.20) |
としよう。 ところで、全モード数が振動子の数となるようにするには、振動数を ある値 で打ち切らねばならない。 式(C.20)を用いて積分すると
であるから、振動数の最大値 は
(C.21) |
(C.22) |
と与えられる。
モード数の分布が得られたので、式(C.13)の内部エネルギーを求めよう。 式(C.12)と(C.22)より
(C.23) |
であるが、ここで
(C.24) |
とおけば、
(C.25) |
と書ける。 ここで
とおいた。 は高温 () で となり、その結果 である。