マントル対流数値シミュレーション概論

Appendix B 非デカルト座標系でのマントル対流の基礎方程式系

(February 9, 2022)

以下では簡単のため、Boussinesq 近似のもとでの基礎方程式を導出する。

B.1 一般座標系でのマントル対流の方程式系

解くべき方程式を

Tt= -(𝒗T-κT) (B.1)
0= 𝒗 (B.2)
𝟎= 𝝉+𝒃 (B.3)
𝝉= -p𝑰+2η𝑫 (B.4)
𝑫 12(𝒗+𝒗) (B.5)

とする。 ここで𝑰は単位テンソルである。 また上記から明らかなように、応力テンソル𝝉は対称テンソルであり、 𝝉=𝝉である。 以下、ベクトルやテンソルは極力反変成分を使って書くことにする。

まず質量保存の式(B.2)を書き直す。 一般座標系では

={xm𝒈mxmgml𝒈l (B.6)

となることを使うと、

0= (xm𝒈m)(vk𝒈k)=𝒈m(vkxm𝒈k+vk𝒈kxm)
= 𝒈m(vkxm𝒈k+vkΓkml𝒈l)=vkxm(𝒈m𝒈k)+vkΓkml(𝒈m𝒈l)
= vkxk+vkΓkmm (B.7)

となる。 この手順は要するに、ベクトルの反変成分の共変導関数を求める手順と同じであ る。

熱輸送方程式(B.1)も同様にできる。 簡単のために熱流束ベクトル

𝒇𝒗T-κT=vlT𝒈l-κgmlTxm𝒈l=(viT-κgmiTxm)𝒈ifi𝒈i (B.8)

を定義しておけば、

Tt=-(fkxk+fkΓkmm) (B.9)

とするだけでよい。

次に運動量保存の式(B.3)を考える。 そのうち応力テンソルの発散をどう書けばよいかを考えてみる。 応力テンソルを反変成分で書いてみて、その発散をとると、

𝝉= (τij𝒈i𝒈j)(xm𝒈m)
= (τijxm𝒈i𝒈j+τij𝒈ixm𝒈j+τij𝒈i𝒈jxm)𝒈m
= (τijxm𝒈i𝒈j+τijΓiml𝒈l𝒈j+τij𝒈iΓjml𝒈l)𝒈m
= τijxmδjm𝒈i+τijΓimlδjm𝒈l+τij𝒈iΓjmlδlm
= (τijxj+τkjΓkji+τijΓjkk)𝒈i (B.10)

となる。 これも実は2階のテンソルの反変成分の共変導関数を求める手順と同じ。 これを代入すれば結局

(τijxj+τkjΓkji+τijΓjkk)𝒈i+𝒃=0 (B.11)

を得る。

最後に構成方程式(B.4)と(B.5)を考える。 まず、応力テンソル𝝉の反変成分を書き下すと、

𝝉= -p𝑰+2η𝑫=-pgij𝒈i𝒈j+2ηDij𝒈i𝒈j
= (-gijp+2ηDij)𝒈i𝒈jτij𝒈i𝒈j (B.12)

である。 次に歪速度テンソル(変形速度テンソル)𝑫の反変成分の表現を作ってみる と、

2𝑫= 𝒗+𝒗=(xm𝒈m)(vi𝒈i)+(vi𝒈i)(xm𝒈m)
= vixm𝒈m𝒈i+vi𝒈m𝒈ixm+vixm𝒈i𝒈m+vi𝒈ixm𝒈m
= vixm𝒈m𝒈i+vi𝒈mΓiml𝒈l+vixm𝒈i𝒈m+viΓiml𝒈l𝒈m
= (vixm+vkΓkmi)𝒈m𝒈i+(vixm+vkΓkmi)𝒈i𝒈m
= (vixm+vkΓkmi)(gml𝒈l)𝒈i+(vixm+vkΓkmi)𝒈i(gml𝒈l)
= [gmi(vjxm+vkΓkmj)+gmj(vixm+vkΓkmi)]𝒈i𝒈j2Dij𝒈i𝒈j (B.13)

を得る。 上式の()内はベクトル𝒗の反変成分の共変導関数であり、反変1階、 共変1階の混合成分である。 それらと計量テンソルの反変成分との縮約をとることにより、2階のテンソル 𝑫の反変成分を求めることができる。

見た目はややこしいが、これで一般座標系での基礎方程式が書けたことになる。

B.2 (正規)直交曲線座標系でのマントル対流の方程式系

先に求めた一般座標系での表式に、正規直交曲線座標系の条件を加えて、式を簡 略化する。 共変基底ベクトル𝒈iから正規化された局所直交基底𝒂i

𝒂i1hi𝒈i=hi𝒈i (B.14)

と定義する。 ここでhi|𝒈i|2は共変基底ベクトル𝒈iの長さ である。 さらに、基底𝒂iを用いて表示したベクトルやテンソルの成分を v^iの如く、^で表わすことにすると、これらと(一般座標系で 書いた)反変成分との関係は

vi =𝒗𝒈i=(v^j𝒂j)𝒈i=(v^j1hj𝒈j)𝒈i=v^jhjδji=v^ihi (B.15)
Dij =𝒈i𝑫𝒈j=𝒈i(D^kl𝒂k𝒂l)𝒈j=𝒈i(D^kl1hkhl𝒈k𝒈l)𝒈j=D^klhkhlδkiδlj=D^ijhihj (B.16)

と与えられる。 即ち、正規化された局所直交基底での式を書き下す場合には、Christoffel記号 Γijn の書き直しに加え、ベクトルやテンソルの成分の表式も書き直 す必要がある。

まず質量保存の式は

0 =vkxk+vkΓkmm=xk(v^khh)+v^khk(1hmhmxkδmm+1hmhmxmδkm-hkhm2hkxmδkm)
=xk(v^khh)+v^khk1hmhmxk=xk(v^khh)+v^khk1h1h2h3h1h2h3xk
=1h1h2h3xk(h1h2h3v^khk) (B.17)

となる。 これはよくある、正規直交曲線座標系でのベクトル場の発散の式と同じ。

熱輸送方程式については、熱流束ベクトル𝒇𝒂iによる成分を

f^i=hifi=hi(v^ihiT-κ1hi2Txi)=v^iT-κ1hiTxi (B.18)

と定義しておけば

Tt =-(fkxk+fkΓkmm)=-1h1h2h3xk(h1h2h3f^khk) (B.19)

と与えられる。

次に 構成方程式のうち、応力テンソル𝝉の基底𝒂iによる表現は

τ^ij=hihjτij =hihj(-1hihjδijp+2ηD^ijhihj)=-pδij+2ηD^ij (B.20)

である。 次に歪速度テンソル(変形速度テンソル)𝑫の表現は

2D^ij =hihj2Dij=hihj[gmi(vjxm+vkΓkmj)+gmj(vixm+vkΓkmi)]
=hjhi[xi(v^jhj)+v^khk(1hjhjxiδkj+1hjhjxkδij-hihj2hixjδik)]
+hihj[xj(v^ihi)+v^khk(1hihixkδji+1hihixjδki-hkhi2hkxiδkj)]
=hjhixi(v^jhj)+1hiv^jhjhjxi+1hiv^khkhjxkδij-1hjv^ihihixj
+hihjxj(v^ihi)+1hjv^khkhixkδij+1hjv^ihihixj-1hiv^jhjhjxi
=hjhixi(v^jhj)+1hiv^khkhjxkδij+hihjxj(v^ihi)+1hjv^khkhixkδij
=hjhixi(v^jhj)+hihjxj(v^ihi)+v^khk2hihixkδij (B.21)

最後に運動量保存の式を基底𝒂iで書き直すと、

0 =(τijxj+τkjΓkji+τijΓjkk)𝒈i+𝒃
=[xj(τ^ijhihj)+τ^kjhkhjΓkji+τ^ijhihjΓjkk]hi𝒂i+b^i𝒂i (B.22)

となる。 これよりi方向の運動量保存の式は

-b^i =hixj(τ^ijhihj)+hiτ^kjhkhjΓkji+hiτ^ijhihjΓjkk
=hixj(τ^ijhihj)+hiτ^kjhkhj(1hihixkδji+1hihixjδki-hkhi2hkxiδkj)
+hiτ^ijhihj(1hkhkxjδkk+1hkhkxkδjk-hkhk2hkxkδkj)
=hixj(τ^ijhihj)+τ^jihjhihixj+τ^ijhihjhixj-τ^jjhihjhjxi+τ^ijhj1hkhkxj
=xj(τ^ijhj)-τ^ijhihjhixj+τ^jihjhihixj+τ^ijhj[1hihixj+1hkhkxj]-τ^jjhihjhjxi
=xj(τ^ijhj)+τ^ijhj1hih1h2h3(hih1h2h3)xj-τ^jjhihjhjxi
=1hih1h2h3xj(h1h2h3hihjτ^ij)-τ^jjhihjhjxi

ただし、応力テンソル𝝉の対称性 (τ^ij=τ^ji)を用いた。 よって、

1hih1h2h3xj(h1h2h3hihjτ^ij)-τ^jjhihjhjxi+b^i=0 (B.23)

B.2.1 てっとり早く知りたい方のためのまとめ

3次元球座標系の場合の基礎方程式系

x1=rx2=θx3=ϕ とする。 この場合 h1=1h2=rh3=rsinθ となるので、これを代入して 整理すると以下のようになる。

  • 熱輸送方程式系

    fr =vrT-κTr
    fθ =vθT-κ1rTθ
    fϕ =vϕT-κ1rsinθTϕ
    Tt =-1r2sinθ[r(r2sinθfr)+θ(rsinθfθ)+ϕ(rfϕ)]
  • 質量保存則

    0=1r2sinθ[r(r2sinθvr)+θ(rsinθvθ)+ϕ(rvϕ)]
  • 歪速度テンソルの定義

    Drr =vrr
    Dθθ =1r[vθθ+vr]
    Dϕϕ =1rsinθ[vϕϕ+sinθvr+cosθvθ]
    Drθ=Dθr =12[rr(vθr)+1rvrθ]
    Drϕ=Dϕr =12[rr(vϕr)+1rsinθvrϕ]
    Dθϕ=Dϕθ =12[sinθrθ(vϕsinθ)+1rsinθvθϕ]
  • 偏差応力テンソルの定義

    τrr =2η[Drr-13(Drr+Dθθ+Dϕϕ)]
    τθθ =2η[Dθθ-13(Drr+Dθθ+Dϕϕ)]
    τϕϕ =2η[Dϕϕ-13(Drr+Dθθ+Dϕϕ)]
    τrθ=τθr =2ηDrθ
    τrϕ=τϕr =2ηDrϕ
    τθϕ=τϕθ =2ηDθϕ
  • r 方向の運動方程式

    -pr+1r2r(r2τrr)+1rsinθθ(sinθτrθ)+1rsinθτrϕϕ-τθθr-τϕϕr+br=0
  • θ 方向の運動方程式

    -1rpθ+1r2r(r2τθr)+1rsinθθ(sinθτθθ)+1rsinθτθϕϕ+τθrr-cotθτϕϕr+bθ=0
  • ϕ 方向の運動方程式

    -1rsinθpϕ+1r2r(r2τϕr)+1rsinθθ(sinθτϕθ)+1rsinθτϕϕϕ+τϕrr+cotθτϕθr+bϕ=0

3次元円筒座標系の場合の基礎方程式系

x1=rx2=θx3=z とする。 この場合 h1=1h2=rh3=1 となるので、これを代入して整理すると 以下のようになる。

  • 熱輸送方程式系

    fr =vrT-κTr
    fθ =vθT-κ1rTθ
    fz =vzT-κTz
    Tt =-1rr(rfr)-1rfθθ-fzz
  • 質量保存則

    0=1rr(rvr)+1rvθθ+vzz
  • 歪速度テンソルの定義

    Drr =vrr
    Dθθ =1r[vθθ+vr]
    Dzz =vzz
    Drθ=Dθr =12[rr(vθr)+1rvrθ]
    Drz=Dzr =12(vzr+vrz)
    Dθz=Dzθ =12[1rvzθ+vθz]
  • 偏差応力テンソルの定義

    τrr =2η[Drr-13(Drr+Dθθ+Dzz)]
    τθθ =2η[Dθθ-13(Drr+Dθθ+Dzz)]
    τzz =2η[Dzz-13(Drr+Dθθ+Dzz)]
    τrθ=τθr =2ηDrθ
    τrz=τzr =2ηDrz
    τθz=τzθ =2ηDθz
  • r 方向の運動方程式

    -pr+1rr(rτrr)+1rτrθθ+τrzz-τθθr+br=0
  • θ 方向の運動方程式

    -1rpθ+1r2r(r2τθr)+1rτθθθ+τθzz+bθ=0
  • z 方向の運動方程式

    -pz+1rr(rτzr)+1rτzθθ+τzzz+bz=0