簡単のため、ブシネスク近似が成り立ち、かつ物性が一様な流体の、水平方向に 無限の広がりをもつ3次元領域の中での熱対流を仮定する。 無次元化された基礎方程式を具体的に書き下すと、
| (2.1) | ||||
| (2.2) | ||||
| (2.3) |
ただし温度場の境界条件として
鉛直方向速度の境界条件として
を考える。 また水平方向速度 及び の境界条件は
| 自由すべり境界 | (2.4) | |||
| 固着境界 | (2.5) |
のいずれかであるものとする。 この種の問題では、Rayleigh 数がある値 (臨界 Rayleigh 数) より大き ければ対流が起こることが示されている。 ここでは、線型安定性解析により を求めてみる。 線型安定性解析のよくある手順に倣い、各変数を基本場と微小な擾乱の和で書く。 以下、添字つきで基本場を表わし、つきで微小な擾乱を表わすこと にする。
まず、基本場の表現を決定する。 簡単のため、基本場は完全静止()な熱伝導状態で、水平面内(-及 び-方向)には一様とする。 この場合、基本場は以下のように表わせる。
| (2.6) | ||||
| (2.7) |
次に、微小な擾乱に関する式を求める。 線型安定性解析の定石に倣い、擾乱は微小とみなして1次の項のみ残すと、 速度及び圧力の微小な擾乱に関する式は以下のように書ける。
| (2.8) | ||||
| (2.9) |
これらから、、を消去してやることにより、 (以下簡単のためと略記する) に関する式を得る。
| (2.10) |
同様に、温度場の微小擾乱に関する式を求めると、
| (2.11) |
さらに中立 (臨界) 状態を仮定して温度擾乱の時間変化がないとすれば、
| (2.12) |
(2.10) と (2.12) から を消去すれば、 のみを含んだ方程式
| (2.13) |
を得る。 また連続の式を使うことにより水平方向速度場の境界条件をを含む形 で書き直せば
| 自由すべり境界 | (2.14) | |||
| 固着境界 | (2.15) |
を得る。 同様に式(2.10)を用いて の境界条件をのみで書 き表わすと、
| (2.16) |
となる。
これらはに関する定数係数の微分方程式であり、変数分離法により解 を求めることができる。 そこで
| (2.17) |
なる形の解を仮定する。 ここでは虚数単位である。 これを用いれば、解くべき方程式は結局
| (2.18) | |||
| (2.19) | |||
| (2.20) |
とまとめられる。 ただし は水平方向の擾乱の波数である。
この場合が最も簡単に臨界Rayleigh数を求めることができる。 境界条件(2.19)より、 は
| (2.21) |
と書ける。 これを式(2.18)に代入して整理すると、
| (2.22) |
これが自明 () でない解を持つためには
| (2.23) |
と与えられる。
この最小値を求めよう。 上式をで微分して
| (2.24) |
これは
| (2.25) |
のときとなり、その時のは
| (2.26) |
である。 これから、のときに臨界Rayleigh数は最小値
| (2.27) |
をとり、これを与える擾乱の水平方向波数は
| (2.28) |
である。
この場合には、境界条件からの関数形を直ちに推測することが困難である。 そこで、解をより一般的な表現で書き表わした後に、境界条件を満足するように とることにする。
は (ただしは複素数) の線形結合 (即ち、、、、 の線型結合) で書けるはずである。 この関数形を式(2.18)に代入すると、自明でない解が存在するた めにはは
| (2.29) |
を満足しなければならない。 これを解くためと置くと、
| (2.30) |
である。ただし
は1の3乗根である。 この6つの解を 、、 (は複素共役) とおくと、
| (2.31) | ||||
| (2.32) | ||||
| (2.33) |
と書ける。 またこれらの間には
| (2.34) |
なる関係がある。
以下、境界条件の対称性より、対流層の真ん中の深さを、かつ境界面の位 置をととり直す。 またに関する対称性から、は偶関数となるか奇関数となるかのいず れかである。 しかし奇関数の解はで節をもつ()ので、いわゆる「基底状態」 ではない。 対流の起こり始めとしては、節のない偶関数の解が適当である。 そこで、が偶関数となるような解を求めてみる。 このときは
| (2.35) |
と書けるはずである。 これが境界条件を満たすように係数、、を定める。 を微分すると、
| (2.36) | ||||
| (2.37) |
での境界条件は
| (2.38) | ||||
| (2.39) | ||||
| (2.40) |
これを整理すると
| (2.41) |
これが自明でない解を持つためには、
| (2.42) |
これを解いて整理すると、
| (2.43) |
あるいは
| (2.44) |
を得る。 式 (2.44) によって、 と () が結ばれ ている。 この式の解を数値的に求めると、 が最小となるのは のときで、 このとき となる。
なお、 が奇関数となるときの解を求めてみると、このとき は
| (2.45) |
とおける。先と同様にしてやると、、、 に関して、
| (2.46) |
が成りたつ。 が最小となるのは のときで、このとき となる。
このときの解は、両端が剛体面のときの解のうち、奇関数の解から得られる (これは での境界条件を満たしていることに注意)。 この解を適用するには、箱の深さが になったとみなせばよいので、 が最小となるのは のときで、このとき となる。
図4に擾乱の水平方向波数に対するの変化を示す。
| (a) against |
![]() |
| (b) for minimum |
![]() |