Appendix E 球面調和関数

やはり地球科学たるもの、球面調和関数くらいは知っておきたいところである。 しかしその前に準備として、Legendre多項式やLegendre陪関数も知って おかなければならない。

E.1 準備その1: Legendre多項式 (Legendre関数)

Legendre多項式 (Legendre polynomial) は、区間 1x1で定義さ れた直交多項式であり、球対称性をもつ体系について偏微分方程式を解く際によ く登場する。

E.1.1 母関数による定義

|t|<1 かつ |x|1に対して

g(t,x)112tx+t2 (E.1)

と関数g(t,x)を定義する。 この関数を

g(t,x)=n=0Pn(x)tn (E.2)

のように tについてのべき級数に展開したとする。 このときtのべき乗の展開係数として登場する関数Pn(x)をLegendre多 項式という。 (ちなみに g(t,x) は母関数と呼ばれる。)

式(E.1)の意味を考えるため、2次元デカルト座標系において原点 O か らx軸方向にaだけずれた位置にある点Qと任意の点Pとの距離lを考える。 点Pの座標を(X,Y)と書き、かつ2次元極座標を用いて

X=rcosθ,Y=rsinθ

と書くことにすると、1/l

1l =1(Xa)2+Y2
=1r22arcosθ+a2=1r112(a/r)cosθ+(a/r)2 (E.3)

と与えられる。 これは式(E.1)において、ta/r かつ xcosθ と置 き換えたものにほかならない。

E.1.2 Legendre多項式の表式

Legendre多項式をあらわに書き下すと、その表式は

Pn(x) =12nk=0[n/2](1)kk!(2n2k)!(n2k)!(nk)!xn2k (E.4)
=12nn!dndxn(x21)n (E.5)

などと書ける。 ここで[n/2]n/2を超えない整数を意味する。 なお式(E.5)は「ロドリグの公式」とも呼ばれる。

E.1.3 Legendre多項式の直交性と完全性

Legendre関数は次の直交性を満たす。

11Pm(x)Pn(x)𝑑x=22n+1δmn (E.6)

加えて、Legendre関数Pn(x)1x1の区間で完全系をなす。 すなわち1x1の区間で定義された任意の関数f(x)

f(x)=ncnPn(x) (E.7)

と展開でき、かつ係数cn

cn=2n+1211f(x)Pn(x)𝑑x (E.8)

により求められる。

E.1.4 Legendreの微分方程式

Legendre関数は次の微分方程式を満たす。

ddx[(1x2)dPn(x)dx]+n(n+1)Pn(x)=0 (E.9)

式(E.9)を「Legendreの微分方程式」という。 ここで、x=cosθ (dx=sinθdθ) と変数変換すると

0 =1sinθddθ[(1cos2θ)1sinθdPndθ]+n(n+1)Pn (E.10)
=1sinθddθ[sinθdPn(cosθ)dθ]+n(n+1)Pn(cosθ) (E.11)

E.1.5 Legendre多項式の用途の例: 軸対称性をもつ3次元極座標系 におけるラプラス方程式の変数分離解

3次元球座標系でスカラー量fのラプラス方程式は

0=2f=1r2r(r2fr)+1r21sinθθ(sinθfθ)+1r21sin2θ2fϕ2

のように書ける。 以下では、経度ϕの方向に一様 (/ϕ=0) である場合 に限定し、かつこれに

f(r,θ,ϕ)=nRn(r)Pn(cosθ)

という形 (変数分離形という) を仮定して代入すると、

0 =n1r2ddr(r2dRndr)Pn+n1r21sinθddθ(sinθdPndθ)n(n+1)PnRn
=n1r2[1Rnddr(r2dRndr)n(n+1)]RnPn

これが全てのrθで成り立つためには、

0=1Rnddr(r2dRndr)n(n+1)

でなければならない。 そのためには、cnを定数として、

Rn=cnrnあるいはRn=cnr(n+1)

地球惑星の外部を考える際には、解は rで有界であるべきだから

f(r,θ,ϕ)=ncnr(n+1)Pn(cosθ)

のように変数分離解が与えられる。

E.2 準備その2: Legendre陪関数

E.2.1 Legendre陪関数の表式

Legendre陪関数 Pnm(x)は、Legendre関数Pn(x)を微分したもの に相当する。

Pnm(x)=12nn!(1x)m/2dn+mdxn+m(x21)n (E.12)

ただし m のとりうる範囲として意味があるのは、nmn に限られ る。

Pnm(x)は以下のような性質をもつ。

Pnm=0(x) =Pn(x) (E.13)
Pnm=n(x) =(2n)!2nn!(1x2)n/2 (E.14)
Pnm0(x) =(1x)m/2dmdxmPn(x) (E.15)
Pnm =(1)m(nm)!(n+m)!Pnm(x) (E.16)

E.2.2 Legendreの陪微分方程式

Legendre陪関数は次の微分方程式を満たす。

ddx[(1x2)dPnm(x)dx]+[n(n+1)m21x2]Pnm(x)=0 (E.17)

これを「Legendreの陪微分方程式」という。

ここで、x=cosθ (dx=sinθdθ) と変数変換すると

0=[1sinθddθ(sinθddθ)+n(n+1)m2sin2θ]Pnm(cosθ) (E.18)

を得る。

E.2.3 Legendre陪関数の用途の例: 3次元極座標系におけるラプラ ス方程式の変数分離解

3次元球座標系でスカラー量fのラプラス方程式に

f(r,θ,ϕ)=n,mRnm(r)Pnm(cosθ)exp(imϕ)

という形 (変数分離形という) を仮定して代入・整理すると

0 =n,m1r2exp(imϕ)×{+ddr(r2dRnmdr)Pnm+Rnm[1sinθddθ(sinθddθ)m2sin2θ]Pnm=n(n+1)Pnm}
=n,m1r2[1Rnmddr(r2dRnmdr)n(n+1)]RnmPnmexp(imϕ)

これが全てのrθϕで成り立つためには、

0=1Rnmddr(r2dRnmdr)n(n+1)

でなければならない。 そのためには、cnmを定数として、

Rnm=cnmrnあるいはRnm=cnmr(n+1)

地球惑星の外部を考える際には、解は rで有界であるべきだから

f(r,θ,ϕ)=n,mcnmr(n+1)Pnm(cosθ)exp(imϕ)

のように変数分離解が与えられる。

E.2.4 Legenrde 陪関数の直交性

mを一定とすると、Pnmnに関して次のような直交性をもつ。

11Pnm(x)Pnm(x)𝑑x=22n+1(n+m)!(nm)!δnn (E.19)

E.3 準備その3: 完全正規化されたLegendre陪関数

ここまでで定義したルジャンドル陪関数では、(n や) m が大きくなると、 関数の値が大きくなり過ぎてしまうのが不便である。 そこで、これを避けるようにルジャンドル陪関数を「正規化」したものがいくつ か提案されている。

その1つが「完全正規化されたルジャンドル陪関数」P¯nmであり、 以下のように定義されている。

P¯nm={2n+1Pnm(m=0)2(2n+1)(nm)!(n+m)!Pnm(m>0) (E.20)

あるいは、

cm={2(m=0)1(m=1,2,3,) (E.21)

という係数cmを用いて

P¯nm=2(2n+1)cm(nm)!(n+m)!Pnm (E.22)

と書くこともできる。 なおこの cmcos の直交関係に由来しているもので、実際

02πcos2mϕdϕ=cmπ={2π(m=0)π(m=1,2,3,)

であることが確認できる。

mを一定とすると、P¯nmnに関して次のような直交性をもつ。

11P¯nm(x)P¯nm(x)𝑑x=4cmδnn={2δnn(m=0)4δnn(m>0) (E.23)

ここで用いた「正規化」は、次に登場する球面調和関数の定義で用いられている ものとも異なることに注意。

E.4 球面調和関数の定義と性質

球面調和関数 (あるいは球面関数)Ym(θ,ϕ) は Legendre 陪関 数Pm と指数関数を用いて

Y(θ,ϕ)m=2+14π(m)!(+m)!Pm(cosθ)exp(imϕ) (E.24)

により定義される (位相因子(1)mをつける流儀もあり)。 ここでθは補緯度、ϕは経度である。 添字の (degree) とm (order) は整数であって、0かつ mに限られる。 式(E.24)内のLegendre陪関数Pm(cosθ) は Legendre 多項式 P(cosθ)=P0(cosθ) から

P(cosθ) =12!dd(cosθ)(cos2θ1) (E.25)
Pm(cosθ) =(sinθ)mdmP(cosθ)d(cosθ)m,(for 0m) (E.26)
Pm(cosθ) =(1)m(m)!(+m)!Pm(cosθ) (E.27)

mについて、

  • 2m は、Ym(θ,ϕ)=0 を満たすϕの数を表す。

  • mは、Ym(θ,ϕ)=0 を満たすθの数を表す。

この定義によれば、=0,1,2,3に対するYm(θ,ϕ)の具体的な 関数形は次のようになる。

P(cosθ) Pm Ym
0 1 P00=1 Y00=14π
1 cosθ P11=12sinθ Y11=1232πsinθexp(iϕ)
P10=cosθ Y10=34πcosθ
P11=sinθ Y11=38πsinθexp(iϕ)
2 12(3cos2θ1) P22=18sin2θ Y22=1830πsin2θexp(2iϕ)
P21=12sinθcosθ Y21=12152πsinθcosθexp(iϕ)
P20=12(3cos2θ1) Y20=1254π(3cos2θ1)
P21=3sinθcosθ Y21=12152πsinθcosθexp(iϕ)
P22=3sin2θ Y22=1830πsin2θexp(2iϕ)
3 12(5cos3θ3cosθ) P33=sin3θ48 Y33=1835πsin3θexp(3iϕ)
P32=18sin2θcosθ Y32=18210πsin2θcosθexp(2iϕ)
P31=18sinθ(5cos2θ1) Y31=1821πsinθ(5cos2θ1)exp(iϕ)
P30=12(5cos3θ3cosθ) Y30=1274π(5cos3θ3cosθ)
P31=32(5cos2θ1)sinθ Y31=3873π(5cos2θ1)sinθexp(iϕ)
P32=15cosθsin2θ Y32=141052πcosθsin2θexp(2iϕ)
P33=15sin3θ Y33=1835πsin3θexp(3iϕ)
4 18(35cos4θ30cos2θ+3) P44=1384sin4θ Y44=316352πsin4θexp(4iϕ)
P43=148sin3θcosθ Y43=3835πsin3θcosθexp(3iϕ)
P42=148sin2θ(7cos2θ1) Y42=158110πsin2θ(7cos2θ1)exp(2iϕ)
P41=18sinθcosθ(7cos2θ3) Y41=385πsinθcosθ(7cos2θ3)exp(iϕ)
P40=18(35cos4θ30cos2θ+3) Y40=3161π(35cos4θ30cos2θ+3)
P41=52sinθcosθ(7cos2θ3) Y41=385πsinθcosθ(7cos2θ3)exp(iϕ)
P42=152sin2θ(7cos2θ1) Y42=158110πsin2θ(7cos2θ1)exp(2iϕ)
P43=105sin3θcosθ Y43=3835πsin3θcosθexp(3iϕ)
P44=105sin4θ Y44=316352πsin4θexp(4iϕ)
m=0 m=1 m=2 m=3 m=4
=1 Refer to caption Refer to caption
=2 Refer to caption Refer to caption Refer to caption
=3 Refer to caption Refer to caption Refer to caption Refer to caption
=4 Refer to caption Refer to caption Refer to caption Refer to caption Refer to caption
Figure 6: いくつかのにおける球面調和関数の例。

Yl,mYlm の間には、複素共役の関係

Ym(θ,ϕ)=(1)mYm(θ,ϕ) (E.28)

がある。 これは(E.24)と(E.27)から明らかであろう。

球面調和関数の正規直交性

0πsinθdθ02πdϕYm(θ,ϕ)Ym(θ,ϕ)=δδmm (E.29)

が得られる。 これより、任意の関数f(r,θ,ϕ)

f(r,θ,ϕ)==0m=fm(r)Ym(θ,ϕ) (E.30)

の如く球面調和関数展開できる。 ここで

fm(r)=0πsinθdθ02πdϕf(r,θ,ϕ)Ym(θ,ϕ) (E.31)

である。

E.5 球面調和関数の加法定理

3次元球座標系で指定された2つのベクトル 𝒓1=(r1,θ1,ϕ1)𝒓2=(r2,θ2,ϕ2) に 対して、これら2つのベクトルのなす角度をγ とおくと

cosγ=(𝒓1,𝒓2)|𝒓1||𝒓2|=cosθ1cosθ2+sinθ1sinθ2cos(ϕ2ϕ1)

であるが、このときのルジャンドル多項式Pの値について、

P(cosγ)=4π2+1m=Ym(θ1,ϕ1)Ym(θ2,ϕ2) (E.32)

が成り立つ。 ただし複素共役を意味する はどちらの Ymにつけてもよい。 また、この関係をルジャンドル陪関数で書き直すと、以下のようになる。

P(cosγ) =P(cosθ1)P(cosθ2)+2m=1(m)!(+m)!Pm(cosθ1)Pm(cosθ2)cos[m(ϕ1ϕ2)]
=12+1m=0P¯m(cosθ1)P¯m(cosθ2)cos[m(ϕ1ϕ2)] (E.33)

E.6 水平Laplacianへの分離

Laplacian 2rに関する微分演算子とそれ以外の演算子L2に分 離しておこう。

2=1r2r(r2r)1r2L2 (E.34)

ただし、

L21sinθθ(sinθθ)1sin2θ2ϕ2 (E.35)

である。 これより、

L2Ym(θ,ϕ)=(+1)Ym(θ,ϕ) (E.36)

がいえる。 さらに式(E.34)より、

D1r2r(r2r)(+1)r2 (E.37)

と定義すれば、

2f(r)Ym(θ,ϕ)=Ym(θ,ϕ)Df(r) (E.38)

と書ける。

E.7 トロイダル場とポロイダル場

𝒗=0を満たすようなベクトル場 (solenoidal) は、 ポロイダル場𝑺

𝑺×[×(Φr𝒓)]=×[(Φr)×𝒓] (E.39)

とトロイダル場𝑻

𝑻×[Ψr𝒓]=(Ψr)×𝒓 (E.40)

の和で書くことができる。 各々を球座標系の成分で書き下すと、

𝑺 =(1r2L2Φ,1r2Φrθ,1rsinθ2Φrϕ) (E.41)
𝑻 =(0,1rsinθΨϕ,1rΨθ) (E.42)

となる。 さらにΦΨを式(E.30)に倣って球面調和関数展開してみよう。 こうして得られる展開係数(rの関数でもある)は

𝑺m ((+1)r2Φm(r)Ym,1rdΦmdrYmθ,1rsinθdΦmdrYmϕ) (E.43)
𝑻m (0,Ψm(r)rsinθYmϕ,Ψm(r)rYmθ,) (E.44)

となる。