プレート沈み込み帯のダイナミクス (沈み込むプレート・マントル対流の層構造)
マントル対流の層構造?
プレート沈み込み帯で起こる地震の分布
- 深発地震の震源の分布と、プレートの沈み込みが対応している。 「和達-ベニオフ帯」
- 深発地震が発生するのは上部マントル内のみで、下部マントルでは発生しない。
- 深さ 700 km 付近での深発地震の起こり方から、プレートは沈み込みを妨げる力を受けているように見える
プレートは下部マントルに沈み込んでいない??
マントル対流は上部マントルと下部マントルの上下2層に分かれている?
最近の地震波トモグラフィーで、スラブ (沈み込んだプレート) はどうみえる?
- 太平洋スラブは深さ 660 km (上部マントルと下部マントルの境界) 周辺で「横たわっている」ように見える
「停滞スラブ」または「スタグナントスラブ」
- ただし全てのスラブがそうなる訳でもない
マントル物質の相転移
マントル遷移層上面に相当する相転移
かんらん石の成分の1つである Mg2SiO4 は、マントル遷移層に相当する温度・圧力条件下で、次のような相転移を起こすことが知られている。
Ol (オリビン; かんらん石) ↔ Wd (ウォズレアイト) ↔ Rw (リングウッダイト)
- 相転移に伴う密度の増加は
- Ol ↔ Wd で約 8 %
- Wd ↔ Rw で約 2 %
- 特に Ol ↔ Wd 相転移は、遷移層上面に対応づけられている。
マントル遷移層下面に相当する相転移
かんらん石の成分の1つである Mg2SiO4 は深さ約 660 km 付近の温度・圧力条件下で、次のような分解相転移を起こすことが知られている。
Mg2SiO4 (リングウッダイト)
↔
MgSiO3 (ブリッジマナイト)
+
MgO (ペリクレース)
- 相転移に伴う密度の増加は約 10 %
- この相転移は、遷移層下面に対応づけられている。
マントル物質の相転移とマントル対流
単純な熱対流であれば
- 周囲より 冷たい ところは 重い ので 沈む
- 周囲より 温かい ところは 軽い ので 浮く
相転移の「クラペイロン勾配」とは?
右図のように高圧相と低圧相の相境界線を描いたとき、この傾きの逆数 \(\dfrac{dP}{dT}\) を一般に「クラペイロン勾配」と呼ぶ。 これは相転移の起こる圧力が温度によってどう変わるか? を表わす指標であり、地球科学の多くの場面では MPa/K という単位で与えられる。 また相転移の熱力学 (詳しくは後期の「固体地球物理学」で) によると \begin{equation} \dfrac{dP}{dT}=\dfrac{低圧相と高圧相のエントロピーの差}{低圧相と高圧相の体積の差} \tag{9.24} \end{equation} という関係がある。 なおこの関係は「クラウジウス-クラペイロンの式」と呼ばれる。
マントル遷移層の上下にあたる2種類の相転移でクラペイロン勾配の符号、すなわち 高圧相と低圧相の相境界線の傾き が違っている。
- 遷移層上面の相転移では、相境界線は 右上がり (クラペイロン勾配が 正)
- 遷移層下面の相転移では、相境界線は 右下がり (クラペイロン勾配が 負) になっている。
上昇流/下降流の中で、マントル物質の相転移はどう起こるか?
クラペイロン勾配が0でないと、温度によって相転移の起こる深さが異なる。 沈み込む冷たいスラブの中を例にとり、マントル物質の相転移はどう起こるか?を考えてみる。
- マントル遷移層の上面にあたる相転移 (クラペイロン勾配が正) では、相転移の境界面が 上 にたわむ
← 温度が低いと、より 低い圧力 で相転移が起こる - マントル遷移層の下面にあたる相転移 (クラペイロン勾配が負) では、相転移の境界面が 下 にたわむ
← 温度が低いと、より 高い圧力 で相転移が起こる
クラペイロン勾配が負の相転移が、上昇流/下降流に及ぼす影響
相転移のクラペイロン勾配が負であると、
- 低温の下降流 の中では、周囲が高圧相 (密度大) であっても、まだ低圧相 (密度小) のまま
→ 上向きの浮力がつけ加わる - 高温の上昇流 の中では、周囲が低圧相 (密度小) であっても、まだ高圧相 (密度大) のまま
→ 下向きの浮力がつけ加わる
マントル物質の固体相転移の効果を取り入れた対流シミュレーションの例
地表面からおよそ 660 km の深さに、遷移層下面での相転移の効果を取り入れた マントル対流シミュレーションの例
- 負のクラペイロン勾配をもつ相転移の効果により、相転移の深さを突き抜けようとする流れが妨害される傾向がある。
- 実際のマントル遷移層下面の相転移の効果を2倍に強調してみると、沈み込んだスラブは相転移面によってせき止められる。
実際の地球のマントルの中ではもっと複雑なことが起こっているはず。 例えば
- 上部マントルと下部マントルの粘性率の違い?
- (沈み込まない) 上盤側のプレートの運動の効果?