固体地球物理学概論 (2024年前学期) 第11回

固体地球内部の成層構造 (第9.1.2章+第2.2.6章)

地球の内部が主に「地殻」「マントル」「核」という3つの部分からなる層構造をしている (右図; 図9.3) ことは既に知っているであろう。 この層構造についてもう少し掘り下げてみる。


地球内部のほぼ球対称な構造

例えば PREM (右図; 図7.6、図9.2、表B.1) や AK135 (図2.30) といった、地球内部の構造の「球対称」モデルが作られている。


ちょっと寄り道: 天体の「外見」から「内面」を推定してみると?

太陽系の中のいくつかの岩石天体の特徴。データは主に Turcotte and Schubert (2014) より。
地球水星火星金星
赤道半径 [km] 637117372439.73389.56051.8
質量 [×1024 kg] 5.97220.0734830.330100.641694.8673
平均密度 [×103 kg/m3] 5.5133.3475.4273.9345.243
重力加速度 [m/s2] 9.78031.6223.7013.6908.870

今回の講義の本題からは少し外れるが、天体の大きさ (半径や質量) といった「外見」的な情報からだけで、その天体の「内面」に関してどんなことが分かるのか? を考えてみよう。

例えば右の表には太陽系の中のいくつかの岩石天体の特徴がまとめられているが、この表の情報のうちでも特に天体の平均密度に注目してみると、以下のような特徴を挙げることができるだろう。

  1. どの惑星・衛星の平均密度も、岩石の平均密度 (だいたい 3×103 kg/m3) と鉄の密度 (室温常圧でだいたい 7.9×103 kg/m3) の間の値をとっている。
  2. ただし平均密度の値は惑星・衛星ごとにまちまちで、岩石と同程度のもの (月、火星) もあれば、岩石と鉄のほぼ中間あたりのもの (地球、水星、金星) もある。
第一の点よりまず、これらの惑星・衛星はどれも岩石と鉄が混ざってできたものだということが分かる。 さらにこれと第二の点を合わせると、これらの惑星・衛星の平均密度の違いは、その内部にある金属鉄の量 (≃ 核の大きさ) の違いに由来しているといえる。 例えば、水星は大きな核 (半径の7割分くらい) を持っているのに対し、月の核は極めて小さいと考えられている。

ついでにいうと、地球が「まるい」形をしているのは、地球が十分大きいから。 観測によると、半径が約 200〜300 km よりも大きな小惑星は「まるい」けれど、それより小さな小惑星はあまり「まるくない」。 天体が小さいと、それによる万有引力も小さいから、天体内部の温度や圧力が十分に高くならず、そのせいで流動性が低くなって「まるい」形になれない。

地殻

大陸地殻と海洋地殻に細分される。 これらは岩石の種類が違う。

岩石の種類が違うせいで、大陸地殻は海洋地殻よりも密度が小さい。 この密度の違いが標高の差 (陸は高く、海は低い) の原因。

モホロビチッチ不連続面 (モホ面)

大陸下で深さ30〜40km、海洋下で深さ5〜6 kmに位置。 地殻とマントルの境界に相当し、上下で岩石の種類が異なる (上がゲンブ岩質、下はカンラン岩質)。

Andrija Mohorovičić (1857〜1936; クロアチア) が1909年に発見。 この面の下側では上側と比べて地震波の速度が急激に増加する (15% 程度)。 だから地震波が反射する。

マントル

地殻より下で、地表面から約 2900 km までの部分。 上部マントル、マントル遷移層、下部マントルに細分される。 それらの境界では、地震波の速度に不連続な変化がみられる。

ただしマントル遷移層まで含めて「上部マントル」という流儀もある。

カンラン石 (Mg,Fe)2SiO4
深さ約 410 km
ウォズレアイト (Mg,Fe)2SiO4
深さ約 520 km
リングウッダイト (Mg,Fe)2SiO4
深さ約 660 km
ブリッジマナイト (Mg,Fe)SiO3 + (Mg,Fe)O
これらの不連続面の原因として、マントルの主要構成鉱物であるカンラン石の一連の相転移が挙げられる。 マントル内に相当する圧力・温度の条件下で、カンラン石は以下のような相転移を起こすことが知られている。 ただし、深さ約 520 km の相転移は、他の2つの相転移に比べて地震の観測ではあまりはっきりと観察されない。

ついでに、教科書「地球ダイナミクス」中の鉱物名表記について補足。

D''層

Bullen の定義現在の呼び名
A層地殻
B層上部マントル
C層マントル遷移層
D層下部マントル
E層外核
F層外核と内核の境界付近
G層内核

マントル最下部の約 200 km の部分。 日本語では「D ツーダッシュ層」あるいは「D ダブルプライム層」と読む。 かつて下部マントルは「D層」と呼ばれていたが、それがさらに「D'層」と「D''層」の2つに細分されたことの名残り。

そもそも下部マントルが「D層」と呼ばれることになったのは、Keith Edward Bullen (1906〜1976; オーストラリア、ただし生まれはニュージーランド) が1940年〜1942年頃に地球内部の地震波速度分布や密度分布を求める際に、地球内部を「A層」から「G層」までに分けたことの名残りである。 なお「D層」が「D'層」と「D''層」の2つに細分されたのも、Bullen の1950年の研究によるものである。

地震波の伝わり方が非常に特徴的で、D''層の成因は永らく謎だった。 しかし最近になって、D''層に対応する圧力・温度条件でブリッジマナイトが相転移することが発見されたことにより、この相転移 (ポストペロブスカイト相転移) とD''層との対応が考えられるようになっている。


核-マントル境界 (CMB)

不連続面の下側 (外核) のほうが、上側 (マントル) に比べて地震波の伝わる速度が遅いという特徴がある。 そのため、この不連続面でP波は下向き (入射角よりも屈折角が小さい) に屈折し、P波の届かない「影の領域 (shadow zone)」ができる。 図2.32 の A' から B の範囲がP波の「影の領域」にあたる (S波の「影の領域」もある)。

Beno Gutenberg (1889〜1960; ドイツ、後にアメリカ) は1926年に「影の領域」の大きさから外核の大きさを推定した。 それゆえこの不連続面は「グーテンベルグ不連続面」とも呼ばれる。

地球の中心から約 3500 km の部分。 主に鉄とニッケルの合金からなる。 外側の約 2300 km にある外核は液体、内側の約 1200 km にある内核は固体の状態にある。 固体の内核は、地球の歴史を通して核が冷える過程で固化してできたものであり、現在も成長を続けている。

内核は Inge Lehmann (1888〜1993; デンマーク) により1936年に発見された。 その根拠は、P波の「影の領域」(図2.32 の A' から B の範囲) の中に、ごく弱いながらもP波が到達すること。 これより、核の中にも不連続面があり、その不連続面より下側 (内核) では上側 (外核) よりも地震波の速度が大きくなっている必要がある。 内核が固体であれば、このような性質をうまく説明することができる。 より厳密にいえば、内核が固体であることを示すには、内核に S 波が伝わることを示す必要がある。このことは自由振動から証明できた。

Lehmann が発見した外核と内核の間の不連続面を「レーマン不連続面」と呼んでいる資料もあるが、たぶんそれは正しくない。ふつう「レーマン 不連続面」といえば上部マントル内の深さ 200 km 付近にあるものを指しているはず。