固体地球内部の成層構造 (第9.1.2章+第2.2.6章)
地球の内部が主に「地殻」「マントル」「核」という3つの部分からなる層構造をしている (右図; 図9.3) ことは既に知っているであろう。 この層構造についてもう少し掘り下げてみる。
地球内部のほぼ球対称な構造
例えば PREM (右図; 図7.6、図9.2、表B.1) や AK135 (図2.30) といった、地球内部の構造の「球対称」モデルが作られている。
- 「球対称」とは、構造が深さ (or 中心からの距離) だけで決まっていることをいう。
厳密にいえば、同じ深さでも場所によって違いがあるのだが、その違いは深さによる違いと比べて非常に小さい。 (例えば、密度は圧力による変化が圧倒的に大) - 地球内部の大部分の領域において、地震波の伝わる速度は深さとともに大きくなる。
高い圧力で押されると、固くなることに対応。 例外は、核とマントルの境界など。 - 大局的には、 密度の高いものが内側に、密度の低いものが外側に分布 している。
地球の歴史の中で「重いものほど下にある」という、重力的に安定な構造へと地球の中が進化 したことを意味する。 (まさか「重いものが先、軽いものが後」に地球に降り積もったなんていう訳はない)
ちょっと寄り道: 天体の「外見」から「内面」を推定してみると?
地球 | 月 | 水星 | 火星 | 金星 | |
---|---|---|---|---|---|
赤道半径 [km] | 6371 | 1737 | 2439.7 | 3389.5 | 6051.8 |
質量 [×1024 kg] | 5.9722 | 0.073483 | 0.33010 | 0.64169 | 4.8673 |
平均密度 [×103 kg/m3] | 5.513 | 3.347 | 5.427 | 3.934 | 5.243 |
重力加速度 [m/s2] | 9.7803 | 1.622 | 3.701 | 3.690 | 8.870 |
今回の講義の本題からは少し外れるが、天体の大きさ (半径や質量) といった「外見」的な情報からだけで、その天体の「内面」に関してどんなことが分かるのか? を考えてみよう。
例えば右の表には太陽系の中のいくつかの岩石天体の特徴がまとめられているが、この表の情報のうちでも特に天体の平均密度に注目してみると、以下のような特徴を挙げることができるだろう。
- どの惑星・衛星の平均密度も、岩石の平均密度 (だいたい 3×103 kg/m3) と鉄の密度 (室温常圧でだいたい 7.9×103 kg/m3) の間の値をとっている。
- ただし平均密度の値は惑星・衛星ごとにまちまちで、岩石と同程度のもの (月、火星) もあれば、岩石と鉄のほぼ中間あたりのもの (地球、水星、金星) もある。
ついでにいうと、地球が「まるい」形をしているのは、地球が十分大きいから。 観測によると、半径が約 200〜300 km よりも大きな小惑星は「まるい」けれど、それより小さな小惑星はあまり「まるくない」。 天体が小さいと、それによる万有引力も小さいから、天体内部の温度や圧力が十分に高くならず、そのせいで流動性が低くなって「まるい」形になれない。
地殻
大陸地殻と海洋地殻に細分される。 これらは岩石の種類が違う。
- 海洋地殻はゲンブ岩質
- 大陸地殻は上部がカコウ岩質で下部がゲンブ岩質
モホロビチッチ不連続面 (モホ面)
大陸下で深さ30〜40km、海洋下で深さ5〜6 kmに位置。 地殻とマントルの境界に相当し、上下で岩石の種類が異なる (上がゲンブ岩質、下はカンラン岩質)。
Andrija Mohorovičić (1857〜1936; クロアチア) が1909年に発見。 この面の下側では上側と比べて地震波の速度が急激に増加する (15% 程度)。 だから地震波が反射する。
マントル
地殻より下で、地表面から約 2900 km までの部分。 上部マントル、マントル遷移層、下部マントルに細分される。 それらの境界では、地震波の速度に不連続な変化がみられる。
- 深さ約 410 km の不連続面: 上部マントルとマントル遷移層の境界
- 深さ約 660 km の不連続面: マントル遷移層と下部マントルの境界
カンラン石 (Mg,Fe)2SiO4 | |
↕ | 深さ約 410 km |
ウォズレアイト (Mg,Fe)2SiO4 | |
↕ | 深さ約 520 km |
リングウッダイト (Mg,Fe)2SiO4 | |
↕ | 深さ約 660 km |
ブリッジマナイト (Mg,Fe)SiO3 + (Mg,Fe)O |
- 「ブリッジマナイト」とは、教科書中でいう「珪酸塩ペロブスカイト」または「ペロブスカイト相」のこと。 最近になってようやく固有の鉱物名がついた (この鉱物が天然で見つかった)。
- 同様に「スピネル相」の鉱物名が「ウォズレアイト」や「リングウッダイト」
- (Mg,Fe)O は「フェロペリクレース」または「マグネシオウスタイト」。
- 本来の periclase は MgO だが、Mg の一部が Fe2+ に置換されていることもある。
- wüstite の理想的な化学式は FeO だが、実際には鉄の空格子 (原子空孔; 鉄の原子がいるはずなのにいない穴) を多量に含んだ不定比化合物。
D''層
Bullen の定義 | 現在の呼び名 |
---|---|
A層 | 地殻 |
B層 | 上部マントル |
C層 | マントル遷移層 |
D層 | 下部マントル |
E層 | 外核 |
F層 | 外核と内核の境界付近 |
G層 | 内核 |
マントル最下部の約 200 km の部分。 日本語では「D ツーダッシュ層」あるいは「D ダブルプライム層」と読む。 かつて下部マントルは「D層」と呼ばれていたが、それがさらに「D'層」と「D''層」の2つに細分されたことの名残り。
地震波の伝わり方が非常に特徴的で、D''層の成因は永らく謎だった。 しかし最近になって、D''層に対応する圧力・温度条件でブリッジマナイトが相転移することが発見されたことにより、この相転移 (ポストペロブスカイト相転移) とD''層との対応が考えられるようになっている。
核-マントル境界 (CMB)
不連続面の下側 (外核) のほうが、上側 (マントル) に比べて地震波の伝わる速度が遅いという特徴がある。 そのため、この不連続面でP波は下向き (入射角よりも屈折角が小さい) に屈折し、P波の届かない「影の領域 (shadow zone)」ができる。 図2.32 の A' から B の範囲がP波の「影の領域」にあたる (S波の「影の領域」もある)。
Beno Gutenberg (1889〜1960; ドイツ、後にアメリカ) は1926年に「影の領域」の大きさから外核の大きさを推定した。 それゆえこの不連続面は「グーテンベルグ不連続面」とも呼ばれる。
核
地球の中心から約 3500 km の部分。 主に鉄とニッケルの合金からなる。 外側の約 2300 km にある外核は液体、内側の約 1200 km にある内核は固体の状態にある。 固体の内核は、地球の歴史を通して核が冷える過程で固化してできたものであり、現在も成長を続けている。
内核は Inge Lehmann (1888〜1993; デンマーク) により1936年に発見された。 その根拠は、P波の「影の領域」(図2.32 の A' から B の範囲) の中に、ごく弱いながらもP波が到達すること。 これより、核の中にも不連続面があり、その不連続面より下側 (内核) では上側 (外核) よりも地震波の速度が大きくなっている必要がある。 内核が固体であれば、このような性質をうまく説明することができる。 より厳密にいえば、内核が固体であることを示すには、内核に S 波が伝わることを示す必要がある。このことは自由振動から証明できた。