固体地球物理学概論 (2024年前学期) 第8回

地震学入門 (その2): 地震の揺れの起こり方 (第2.1章)

震源断層 (第2.2.1章c)

地震波の発生源としての断層を「震源断層」という。

震源となる断層のずれ方 (右図、図2.4も参照): どの向きの断層が、どうすべったか?

加えて、地震の起こった場所を指定するのが「震源 (hypocenter)」や「震央 (epicenter)」。

地震モーメント (第2.1.5章b+c)

断層すべりとしての地震の大きさを表わす物理量として、「地震モーメント (seismic moment)」 \(M_o\) が用いられる。 \begin{equation} M_o=\mu{D}{S} \tag{2.1} \end{equation} ただし \(\mu\) は岩石の剛性率 [Pa]=[N/m2]、\(D\) は断層のすべり量 [m]、\(S\) は断層の面積 [m2]。 これより、\(M_o\) の単位は [Pa × m × m2] = [J] となり、エネルギーと同じ単位を持っていることが分かる。 また定義から当然、地震モーメント \(M_o\) は断層のすべり量 \(D\) やすべった断層の面積 \(S\) が大きいほど大きい。

地震モーメントから換算された地震のマグニチュードを「モーメントマグニチュード (moment magnitude)」といい、次の式で計算される。 \begin{equation} M_w=\frac{1}{1.5}\left(\log_{10}{M_o}-9.1\right) \tag{2.2} \end{equation} 当然ながら、マグニチュードが2大きくなると、地震モーメントは \(10^3\) 倍になる。

地震波と発震機構 (第2.3章)

地震波の観測から、地震を起こした断層のずれを知るにはどうすればよいか? を考えてみる。

なお既に述べたように、地震とは「震源となる断層がずれる」ことによって起こるもののであるから、その起こり方を表現するには

  1. すべった断層の面の向き (断層面の法線の方向) と
  2. 断層がすべった向き
の2つの方向を指定してやる必要がある。 ということで実は、地震の起こり方、すなわち発震機構も2階のテンソルであるといえる。 それゆえ、発震機構を数学的に表現するためには、教科書の第2.3章のように、「モーメントテンソル」というものが使われる。

地震波を生みだす原動力: 二重偶力

偶力とは、大きさが同じで向きが反対の力の組み合わせのこと (右図; 図2.33a)。 力の作用点が「腕」の方向にずれている。 そのため、回転させようとする効果もある。

直交する2組の偶力を組み合わせたものを二重偶力 (double couple) という (右図; 図2.33b)。 断層がずれたことによって生じる変位と地震波は、二重偶力によって生じるものと等しくなる (図2.37)。 偶力1つだけだと回転運動が生じてしまうが、それを打ち消すような2つめの偶力が合わさっている。

図2.33b のような二重偶力によって、どのような地震波が放出されるか? (図2.36) ここでは P 波の放射パターン (図2.36a) に注目し、しかも簡単のため

の2次元的な分布のパターンのみを考えてみる。
ただし実は、4象限型のP波の初動の放射パターンは偶力が1つだけでも説明できる。その代わり、S波の放射パターンを説明するには二重偶力でなければならない。詳しくは教科書2.3章を参照。
ちなみに、震源にはたらく力が「double couple」であるという説を唱えたのは本多弘吉 (1906-1982)。それまでは「single couple (1つの偶力)」説が欧米を中心に信じられてきたが、1960年代になってようやく決着をみた。さらにちなみに、P波の放射パターンが4象限型になっていることは1917年に志田順 (しだ とし; 1876-1936) によって発見された。

実際の地震の記録でも、観測されるP波の初動の「押し」と「引き」の分布は4象限型になっている。 ここで得られる2つの節面のうちのどちらか1つが断層面に対応している (もう1つの節面はすべりの方向と直交する面に対応)。 しかし、2つの節面のうちどちらが本当の断層面かは地震波の放射パターンだけからは決められないので、余震や地殻変動の分布など他の情報も組み合わせて検討される。

震源メカニズム解 (第2.3.3章d)

P波の初動の「押し」「引き」の分布を広範囲で観測することにより、震源における断層面の向きとすべりの方向が推定できる。

横ずれ型正断層型逆断層型

この3次元的な分布を表現したものが震源メカニズム解にあたる。 右図のような「ビーチボール」で描き表わされ、以下のような手順で描かれている。

  1. 震源を中心とした仮想的な球面「震源球 (focal sphere)」の上に、P波の初動の「押し」「引き」の3次元的な分布を描く。 一般的には「押し」を色つきで、「引き」を白抜きで描く。
  2. 震源球の下半分にある面を水平面に投影して描く。
とはいえ個人的なおススメは、ニコニコ動画にある「震源球の仕組み」の説明を見ること (ただし少々不正確だが)。 https://www.nicovideo.jp/watch/sm23825216