連続体力学入門: 地球内部での運動を記述する物理法則 (第10.3.1章)
運動方程式 | ||||
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質量 | \(\times\) | 加速度 | \(=\) | 力 |
\(m\) | \(\times\) | \(a\) | \(=\) | \(f\) |
ちょっとその前に余談: 物理学で扱う「物体」の運動の分類
質点の運動 | 剛体の運動 | 連続体の運動 |
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物体の運動を学ぶ物理学は、だいたい以下のような体系からできている。 当然ながら、下のものほど難しくなる。
- 「質点の運動」:
イメージでいうと「太陽のまわりを公転している地球」
- 並進運動 (高校の物理だと \(m\times{a}=f\) と習ったもの) を対象にする。
- 物体の「位置」が時間とともに変化する様子を調べる。
- 物体の「運動のしにくさ」は「質量」で表わされる。
- 「剛体の運動」:
イメージでいうと「自転しながら公転している地球」
- 「質点の運動」に加えて、回転運動も対象にする。
- 物体の「位置」に加えて「向き」が時間とともに変化する様子を調べる。
- 物体の「運動のしにくさ」は「質量」と「慣性モーメント」で表わされる。
- 「連続体 (固体・流体) の運動」:
イメージでいうと「地殻活動しながら自転・公転している地球」
- 「剛体の運動」に加えて、物体内部の変形も対象にする
- 物体の「位置」と「向き」に加えて「形」が時間とともに変化する様子を調べる。
体積力と面積力
力を2種類に区別する。
- 体積力 (body force):
- 物体の体積や質量に比例してはたらく力。 重力、電磁気力、慣性力 (コリオリ力) など
- 面積力 (surface force):
- 物体を囲んでいる面の大きさに比例してはたらく力。 圧力、応力など
- 角柱にはたらく重力は \(\rho{g}{y}{\delta{A}}\) [N]
- 角柱の底の面にはたらく圧力は \(\dfrac{\rho{g}{y}{\delta{A}}}{{\delta{A}}}=\rho{g}{y}\) [N/m2]
弾性や粘性による力は、面積力に分類される。 そのため、(地球内部を含む) 連続体の運動に対しては、面積力が重要になってくる。
面積力とは
面に対する向きの違う2種類の面積力 - 面を 垂直に押す 力 (面に 直角に はたらく)
「圧力」 (または法線応力) - 面を 横にずらす 力 (面に 平行に はたらく)
「せん断応力」 (または接線応力)
- 面を 垂直に押す 力 (面に 直角に はたらく)
自分と周囲との面積力の及ぼしあい - 作用・反作用の法則により、
(自分が周囲から受ける力) = −(自分が周囲に及ぼす力)
マイナスがついているのは、「向きが反対」という意味。 しかも「マイナス1倍」だから、向きは反対でも大きさは同じ。
- 作用・反作用の法則により、
- 面積力を指定するには、2つの方向を指定してやる必要がある
- どの 方向 にはたらく面積力? (力 の方向)
- どの 面 にはたらく面積力? (面の法線の方向)
応力を指定するのに登場する2つの添字 |
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- 応力を正確に表現するには、\(\sigma_{xx}\)、\(\sigma_{xy}\)、\(\sigma_{xz}\) のように、2つの添字がつけられる。
それぞれの添字で、面の法線の方向と力の方向を表す。
- 2つの添字が同じものは、面を垂直に押す 力
- 2つの添字が異なるものは、面を横にずらす 力
- 3次元の物体にかかる応力は \(3\times3=9\) 個の「成分」で表現される。 (2次元だったら \(2\times2=4\) 個)
- 物体の中心 (図の●の点) のまわりでの、力のモーメントのつりあいを考えると、\(\sigma_{xy}=\sigma_{yx}\) という関係が成り立つ。 同様に \(\sigma_{xz}=\sigma_{zx}\) および \(\sigma_{yz}=\sigma_{yx}\) も成り立つ。
弾性による面積力
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面を垂直に押す力 面を横にずらす力 - 面を 垂直に押す 力が P波 に関係する
- 面を 横にずらす 力が S波 に関係する
- 流体では面を 横にずらす 弾性ははたらかない (だからS波が伝わらない)。
- 弾性による力の大きさは、「ひずみ (歪; strain)」が大きいと大きい。
粘性による面積力
- 粘性による面積力の大きな特徴は、面を垂直に押す方向だけでなく、面を 横にずらす 方向にも力がはたらくこと。
- 粘性による力は、流体を周囲となるべく同じ速さで動かそうとする傾向にはたらく。
粘性のある流体の動きの例として、コップの中の水をマドラーでかき回すような状況をイメージしてみるのもよいだろう。 かき回すとコップの中の水全体が回り始めるが、ここでのポイントは マドラーが押していないところの水まで動かされている こと。 その反対に、かき回すのをやめると、だんだんと動きが弱まり、最後には止まってしまう。
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地球内部で粘性のある流れの例として、下面境界から発生する上昇流について考えると (右図; 図10.15)
- 流体のある部分が持ち上がろうとする
- 粘性によってその周辺部も引きずられて持ち上げられる
- さらにその周辺部も引きずられて持ち上げられる
- 固体地球科学の守備範囲の中で、粘性が出てくる他の例の1つは、溶岩とかマグマ。 溶岩やマグマの粘性が違うと、火山の形や噴火の様式も違ってくる。 このあたりのくわしい話は教科書第4章を。
- 粘性による力の大きさは、「ひずみ速度 (strain rate)」が大きいと大きい。
「ひずみ速度」とは、物体の変形のパターンや速さに関する量で、物体の流れの速さの空間変化率にあたる。 ひずみ速度も2階のテンソルである。