固体地球物理学概論 (2024年前学期) 第05回

連続体力学入門: 地球内部での運動を記述する物理法則 (第10.3.1章)

運動方程式
質量\(\times\)加速度\(=\)
\(m\)\(\times\)\(a\)\(=\)\(f\)
地学コース/地球科学科の2年後期の授業「海洋物理学I」(森本先生) でも習うはずの「ナビエ・ストークス方程式」が、地球内部の運動を記述する時にも登場する。 式の見た目はとても難しいのだが、そのココロはあの「ニュートンの運動の法則」 (慣性の法則、運動方程式、作用・反作用の法則) である。 そのため、地球内部にある 物体にはどんな力がはたらいているか? を知ることからスタートする。

ちょっとその前に余談: 物理学で扱う「物体」の運動の分類

質点の運動剛体の運動連続体の運動

物体の運動を学ぶ物理学は、だいたい以下のような体系からできている。 当然ながら、下のものほど難しくなる。

  1. 「質点の運動」: イメージでいうと「太陽のまわりを公転している地球」
    • 並進運動 (高校の物理だと \(m\times{a}=f\) と習ったもの) を対象にする。
    • 物体の「位置」が時間とともに変化する様子を調べる。
    • 物体の「運動のしにくさ」は「質量」で表わされる。
  2. 「剛体の運動」: イメージでいうと「自転しながら公転している地球」
    • 「質点の運動」に加えて、回転運動も対象にする。
    • 物体の「位置」に加えて「向き」が時間とともに変化する様子を調べる。
    • 物体の「運動のしにくさ」は「質量」と「慣性モーメント」で表わされる。
  3. 「連続体 (固体・流体) の運動」: イメージでいうと「地殻活動しながら自転・公転している地球」
    • 「剛体の運動」に加えて、物体内部の変形も対象にする
    • 物体の「位置」と「向き」に加えて「形」が時間とともに変化する様子を調べる。

体積力と面積力

力を2種類に区別する。

体積力 (body force):
物体の体積や質量に比例してはたらく力。 重力、電磁気力、慣性力 (コリオリ力) など
面積力 (surface force):
物体を囲んでいる面の大きさに比例してはたらく力。 圧力、応力など
右図のように、地面の中に置かれた角柱を例に考えると(図10.11)、 これらの力の合計 (合力) をとって、運動を調べることになる。

弾性や粘性による力は、面積力に分類される。 そのため、(地球内部を含む) 連続体の運動に対しては、面積力が重要になってくる。


面積力とは

応力を指定するのに登場する2つの添字
一般に、2つの方向 (ベクトル) を指定することによって定まる量は「2階のテンソル」と呼ばれ、連続体の変形を議論する場面でよく登場する。 応力も2階のテンソルであるから、 ただし、応力の「成分」のうち、2つの添字が異なるものについては なお、このような性質をもつ量は「対称テンソル」と呼ばれる。

弾性による面積力

「ひずみ」とは、物体の変形のパターンや大きさに関する量で、物体の位置の変化をいう「変位 (displacement)」の空間変化率にあたる。 ひずみも2階のテンソルである。 ひずみの定義は次回に触れるが、教科書では地殻変動を議論している第3.1章にも説明がある。

粘性による面積力