固体地球表面の運動 (プレートテクトニクス)
基本用語集 (第2.1.2章、2.1.3章)
- リソスフェアとアセノスフェア
固体地球の最上部を力学的観点から区別したもの。
- 「リソスフェア (lithosphere)」= 固い表層部、厚さは最大で約100km
- 「アセノスフェア (asthenosphere)」= その下にあるやわらかい層
この力学的な観点による区別と、化学的・岩石学的観点からの区別とは異なることに注意。(図2.5; 右図)
- 「リソスフェア」 = 「地殻 (crust)」+「マントル (mantle)」の最上部
- 「プレート (plate)」 = リソスフェアが断片化したもの
- 地球の表面は十数枚のプレートに分かれており、それぞれが異なった速度と向きで水平に運動している。(図2.6)
- 他の地球型惑星 (水星、金星、火星) や月では、表面のリソスフェアが断片化していない (「プレートが1枚だけ」) らしい。
- 「プレートテクトニクス (plate tectonics)」
となり合うプレートとプレートの境界域でのプレート間の相互作用により、地殻活動 (地震・火山・地殻変動・造山活動) をうまく説明する理論。 1960年代に成立。
- 例えば震源の深さが 100 km よりも浅い地震の震央分布 (図2.8a) より、地震のほとんどは帯状の領域でのみ起こっている。 この「地震の帯」が「プレート境界」に対応している。
- 火山の分布(図4.9)
大陸プレートと海洋プレート
ごく簡単には、海洋域にあるのが海洋プレートで、大陸域にあるのが大陸プレート。
- 海洋プレートの生成・成長・消滅過程
海洋プレートは中央海嶺で生成され、海溝でマントル中に沈んでいく。 現在の地表に残っている最も古い海洋プレートの年代は約1億8千万年。
- 大陸プレートはマントル深部に (大規模には) 沈み込まない。
上に乗っている地殻 (大陸地殻) が低密度で厚いため、大陸プレートは海洋プレートと比べて軽い。 その分、大陸地殻は非常に古い年代を示す。
3種類のプレート境界
となり合うプレートどうしの運動の向きや、発生する地震のタイプが異なる。 (図2.7) また図2.8に見える「地震の帯」の幅の違いはプレート境界の種類の違いを反映 している。
- 発散境界: プレートどうしが離れていき、できたすき間に新たなプレートが誕生。
- 海洋域では「中央海嶺 (mid ocean ridge)」
- 大陸域では「リフト帯 (rift)」
- 収束境界: プレートどうしが近づいてきて、一方がもう一方の下に潜り込む。
- 海洋プレートが潜り込むところは「沈み込み帯 (subduction zone)」、
- 大陸プレートが潜り込むところは「衝突帯 (collision zone)」。
プレートの収束境界では、震源の深さが 100 km を超えるような地震も起こる (図2.8)。
マントル中に沈み込んだ海洋プレートを「スラブ」(slab) という。 稍深発 (60〜250 km) から深発 (350〜670 km) 地震の面的な分布「和達-ベニオフ帯 (Wadati-Benioff Zone)」によりイメージできる。
- 横ずれ境界: プレートどうしがすれ違う。 特に中央海嶺で顕著にみられる。
さらに、地形にも異なる特徴がみられる。
- 発散境界では、拡大の中心軸で最もプレートの年代が若く、軸から離れるにつれて古くなる。
近い 中央海嶺からの距離 遠い 若い 海洋プレートの年代 古い 温かい 海洋プレートの温度 冷たい 低い 海洋プレートの密度 高い 小さい 海底の深度 大きい その間は表面から冷やされ続け、中央海嶺から離れるほど長時間冷やされている。 それゆえ、若い海洋プレートほど温かく低密度になり、中心軸には海底深度の浅い「中央海嶺」ができる。 しかも、この海底の深度の増加は中央海嶺から離れるにつれて左右対称的になっている。 このあたりのくわしい話は第8.4.1章にある。
- 収束境界のうち沈み込み帯では、深い溝である「海溝 (trench)」や「トラフ (trough; 舟状海盆)」で沈み込む。
プレートの曲げによって「アウターライズ (outer rise; 海溝外縁隆起帯)」ができる。
-
横ずれ境界では、境界の両側でプレートの年代が異なり、このため海底深度にも違いがある。
この海底の深度の差は横ずれ境界の外側にも維持されることで「断裂帯 (fracture zone)」 ができている。
即ち、プレート境界は線状の地形で特徴づけられる。
- 他の地球型惑星 (水星、金星、火星) や月には、線状の地形が見あたらない。 言い換えれば、水星・金星・火星・月にはプレート境界がなく、プレー トテクトニクスも起こっていない。
現在のプレート運動 (第3.4.1章)
- まず個々のプレートを同定するには、浅い地震の震央の分布の帯を用いてプレートの輪郭をたどればよい。 これによりプレートの境界が分かるから、プレートの輪郭を描くことができる。
- プレート運動を見積るには、対象とする時間の長さによって、異なる方法が用いられる。
- 地質学的方法 (数百万年スケール): 地磁気の縞模様と地磁気の逆転の記録をつき合わせれば、中央海嶺でのプレートの拡大速度が分かる。 またトランスフォーム断層の走向で運動の向きが分かる。
- 地球物理学的方法 (数十年スケール): プレート境界地震での断層のすべりの向きと大きさ (スリップベクトル) より見積る。
両者で求めたプレート運動の速さはほぼ一致する。 これより、少なくとも過去数百万年間はプレート運動のパターンは基本的に一定だったらしい。
- 加えて最近 (1980年代中頃以降) は宇宙測地学的方法により、現在の (ほぼ瞬間的な) プレート運動の実測が可能になった。
具体的には、異なるプレートの上にある点の間の距離の時間変化を測定してやればよい。 これには GNSS (Global Navigation Satellite System; 全球測位衛星システム) とか、VLBI (Very Long Baseline Interferometry; 超長基線電波干渉法) と呼ばれる方法が使われている。 ちなみに GPS (Global Positioning System) はアメリカが作った衛星測位システムで、日本も含むそれ以外の国が作ったシステム全体を総称して GNSS と呼んでいる。
ちょっと細か (すぎるかも知れな) い話: プレートの相対運動と絶対運動
上述の手法で求まっているのは プレートとプレートの相対速度 (相対運動) であり、地球深部に対するプレートの速度ではない。- 絶対運動 (absolute motion; 地球深部に対するプレートの運動) を求めるには、「地球深部に固定されているはずの点」 を仮定してやる必要がある。 これを「基準座標系 (reference frame)」という。
- ホットスポット基準系: ホットスポットがマントル中で固定されている と仮定するもの。 これには、ホットスポットどうしの位置関係が変わらない (ホットスポット間の相対運動がない) ことが必要。
- 平均リソスフェア系 (no-net-rotation; NNR): プレート群が全体としてみたら地球上を回転していない と仮定するもの。
過去のプレート運動の復元
- 海底に記録が残っている時期 (最近の約1億8千万年分) の復元には
- 地磁気の縞模様に基づく海底の年代の分布より、相対運動が求まる。
- ホットスポット軌跡 (hotspot track) の海山列より、絶対運動が求まる。
- もっと古い時期の復元は?
「見かけの極移動 (Apparent Polar Wander)」
- 古地磁気学により、岩石ができた時期の地磁気の極の位置が分かる。 過去の地磁気の極の位置は、現在の位置と異なっているように見える (「見かけの極移動」)。
- 「見かけの極移動」の軌跡から、地球の極 (地磁気の極とだいたい一致すると仮定) に対する位置の時間変化が分かる。
- 「ウィルソンサイクル (Wilson cycle)」
大陸の離合集散の繰り返し
- これとともにプレート運動 (+関連する現象) も時間変化してきたらしいが、その仕掛けはまだ十分理解できていない。