固体地球物理学概論 (2020年前学期) 第6講

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連続体力学入門(その2) 物体の変形 (第3.1章)

大気や海洋の流れを考える際と同様に、固体地球内部の運動や変形を考える際には「流体力学」 (あるいはさらに一般化した「連続体力学」) という物理学の分野の原理が用いられる。 そこでは、固体や流体の運動・変形を考える手段として、物体を仮想的な「粒子」(つぶ) の集まりだとみなす。 そしてこれらの仮想的な「粒子」の運動や、「粒子」どうしの力のつりあいを考える。 例えばコップの中に入っている水の運動を調べたいときには、多数の流体「粒子」がコップの中をすき間なく埋めており、ある流体「粒子」のまわりには別の多数の流体「粒子」が必ずあるものと仮定している。 このような仮定のもとで、1つ1つの流体「粒子」の運動のようすを考えていく。

第5講 では流体の中に置かれた「物体」にはたらく力を考えてきたが、実はそれは 個々の流体「粒子」がどんな力を受けているか? を考えていたことに相当する。 今回は、流体「粒子」の変形を記述する方法を考えてみる。

変位とひずみ

「変位 (displacement)」とは、物体の内部の点の位置の変化をあらわすベクトル。 右下図で、破線が変形する前のかたち、実線が変形した後のかたち、矢印が4つの頂点の変位を表わしているとする。

「ひずみ (strain)」とは、変位の空間的な変化率 (変位を空間で微分したもの)。 ここでは、ひずみが大きくない場合の理論 (「無限小ひずみ」の理論) に則って話を進める。

ひずみの定義

ひずみも2階のテンソルであるので

伸びひずみ

変形前変形後
もともと \(dx\) だった線分PQの長さが変形後に \((1+e_{xx})\) 倍になったとする (右図; 図3.2b)。 変形後の長さについて \(dx+du=dx(1+e_{xx})\) が成り立つから、\(e_{xx}=\dfrac{du}{dx}\)。 これより、\(x\) 方向の伸びひずみを、偏微分を用いて \begin{equation} e_{xx}\equiv\frac{\partial{u}}{\partial{x}} \tag{3.1} \end{equation} と書く。 \(e_{yy}\) や \(e_{zz}\) も同様。 この定義から分かるように、ひずみには単位がない (無次元量という)。 \[ \frac{\text{点Pと点Qの変位の違い [m]}}{\text{点Pと点Qの間の距離 [m]}} =\text{単位なし} \]

また、変形後の物体の体積を調べてみると、 \begin{align*} {dx}(1+e_{xx})\times{dy}(1+e_{yy})\times{dz}(1+e_{zz})& ={dx}{dy}{dz}(1+e_{xx})(1+e_{yy})(1+e_{zz}) \\& ={dx}{dy}{dz}\left[1+\left(e_{xx}+e_{yy}+e_{zz}\right)+\left(e_{xx}e_{yy}+e_{yy}e_{zz}+e_{zz}e_{xx}\right)+e_{xx}e_{yy}e_{zz}\right] \end{align*} であるが、変形がごく小さい (\(e_{xx}\)、\(e_{yy}\)、\(e_{zz}\) が 0 に近い) と仮定すれば、この式は \[ {dx}(1+e_{xx})\times{dy}(1+e_{yy})\times{dz}(1+e_{zz}) \simeq{dx}{dy}{dz}(1+e_{xx}+e_{yy}+e_{zz}) \] と近似してよい。 ここで \begin{equation} \Theta\equiv{e_{xx}+e_{yy}+e_{zz}} \tag{3.5'} \end{equation} と書くと、これは変形後に物体の体積が \((1+\Theta)\) 倍になったことを意味する。 この \(\Theta\) を体積ひずみという。 (ただし教科書では2次元の話なので「面積ひずみ」となっている)

剪断ひずみ

変形前変形後
もともと直角だった ∠QPR が、変形によってどれだけ変わったかを調べる (右図; 図3.2d)。 ここでも、変形がごく小さい (\(\phi_x\) も \(\phi_y\) も 0 に近い) という仮定により、\(\tan\phi_x\simeq\phi_x\) かつ \(\tan\phi_y\simeq\phi_y\) と近似できることを利用している。 これより、 \begin{equation} e_{xy}=e_{yx}=\frac{\phi_x+\phi_y}{2} =\frac{1}{2}\left(\frac{\partial{v}}{\partial{x}}+\frac{\partial{u}}{\partial{y}}\right) \tag{3.2} \end{equation} と書く。 \(e_{xz}=e_{zx}\) や \(e_{yz}=e_{zy}\) も同様に成り立つ。 これより、剪断ひずみの成分6つのうち、独立なものはその半分の3つだけである。

このように、添字の順番を入れかえても変わらないテンソルを「対称テンソル」という。 ひずみは2階の対称テンソルであるし、応力も2階の対称テンソルである。

弾性体の応力とひずみの関係

ここでも話を簡単にするため、等方弾性体 (弾性の性質が方向によらない) につ いてのみ考える。 また一般的に、 \begin{equation} \sigma_{xy}=\sigma_{yx} ,\quad \sigma_{yz}=\sigma_{zy} ,\quad \sigma_{xz}=\sigma_{zx} \end{equation} という関係 (「応力テンソルの対称性」) も成り立つので、応力テンソルの成分9個のうち、6個のみを考えればよい。

等方弾性体では、応力 \(\sigma\) とひずみの間には、次のような関係がある (Hooke の法則に対応)。 \begin{equation} \begin{split} \sigma_{xx}&=\lambda\Theta+2\mu{e_{xx}} =(\lambda+2\mu){e}_{xx}+\lambda{e}_{yy}+\lambda{e}_{zz}\\ \sigma_{yy}&=\lambda\Theta+2\mu{e_{yy}} =\lambda{e}_{xx}+(\lambda+2\mu){e}_{yy}+\lambda{e}_{zz}\\ \sigma_{zz}&=\lambda\Theta+2\mu{e_{zz}} =\lambda{e}_{xx}+\lambda{e}_{yy}+(\lambda+2\mu){e}_{zz}\\ \sigma_{xy}&=2\mu{e_{xy}}\\ \sigma_{yz}&=2\mu{e_{yz}}\\ \sigma_{xz}&=2\mu{e_{xz}}\\ \end{split} \end{equation} ここで、\(\lambda\) と \(\mu\) は物質の弾性的な性質を表わす量で、「ラメ定数 (Lamé's constants)」とよばれる。 2つのラメ定数のうち、特に \(\mu\) は「剛性率 (rigidity)」ともよばれる。 これら2つのラメ定数と密度 \(\rho\) によって、地震波のP波やS波の伝わる速度が表わされる。

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氏名
質問1ひずみは応力と同様に「2階のテンソル」と呼ばれる量であり、ひずみを指定するには2つの方向を指定する必要がある。ではその2つの方向とは、何の方向と何の方向か答えよ。
質問2愛媛大学の理学部がある城北キャンパスと医学部のある重信キャンパスとの間 (約 \(11.1\) km) で \(e_{xx}=10^{-4}\) の伸びひずみが起こったとする。このとき、2つのキャンパスの間の距離はどれだけ変化したか。なお一般に、岩石は \(10^{-4}\) を超えるひずみには耐えられずに破壊する。