2. 含水鉱物の圧力誘起水素結合対称化
私たちは地球深部へ水を運ぶ役割を担うと考えられている含水鉱物d-AlOOHやphase D (MgSi2O6H2)の
高圧下における構造や物性について研究を行ってきました。多くの含水鉱物は地球内部のような高温・高圧下で
分解してしまいますが、これら含水鉱物は高圧下でも分解せず、プレートの沈み込みとともに地球内部へ
運ばれていると考えられています。特に、このd-AlOOHはこれまで知られている最も高圧下(約150 万気圧)で
安定が確認されている鉱物です。
私たちはd-AlOOHやphase Dの水素位置を精査した結果、水素結合の対称化という現象がそれぞれ約30万気圧、
約40万気圧において起こりうることを理論的に予測しました。水素結合の対称化は、水素原子が隣接する複数の
陰イオン(今回の場合は最近接の二つの酸素原子)のほぼ中心に移動するという現象です。
圧力誘起水素結合対称化は、氷の高圧相転移(VII, VIII相からX相へ)においてよく知られています。
この理論予測をうけて、最近d-AlOOHの中性子回折実験が行われ、この現象が高圧下で起こっている可能性が
あるという報告がなされています。
関連する論文:
J. Tsuchiya, T. Tsuchiya, S. Tsuneyuki and T. Yamanaka
2002 First principles calculation of a high-pressure hydrous phase, δ-AlOOH
Geophysical Research Letters, 29, 1909, doi:10.1029/2002GL015417.
J. Tsuchiya, T. Tsuchiya and S. Tsuneyuki
2005 First principles study of hydrogen bond symmetrization of phase D under high pressure
American Mineralogist, 90, 44-49 doi:10.2138/am.2005.1628.